Tár(2022) M3GAN(2022) The Grand Budapest Hotel(2014) Kauas pilvet karkaavat(1996)
【備忘録】
ここ最近視聴した映画4本
Tár(2022)
M3GAN(2022)
The Grand Budapest Hotel(2014)
Kauas pilvet karkaavat(1996)
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Tár (158分)アメリカ映画
邦題:ター
監督:Todd Field
クラシックオーケストラの最高峰女性指揮者ターが
没落していく様を描いた映画。
キャンセルカルチャーの物語でもある。
この映画は
「創造物が素晴らしければ創造した人間がクソでもOKなのか?」
という、
エンタメ・芸術業界の永遠のテーマが主題となっている。
私は音や音楽に関するものを含めこの映画をなぞってみる。
じっくり鑑賞×2回、解説を読んで確認飛ばし観×2回
観たことによって気づいた事も多い。
【身の回りの生活音に敏感なター】
・副指揮者セバスチャンがおそらく癖であろう
ペンをカチカチする音を止めさせる描写、
聴講生の貧乏ゆすりを抑える描写、
隣人のチャイム音に神経質になる描写、
チャイム音を自分の作曲に取り込もうとしたり
不快な音も含め世の中の総ての音を音楽として受け取ってしまうターの
音に対する全支配的欲求、ある意味ストイックな描写が綴られる。
・ターの愛車はポルシェのタイカンという電気自動車。
これはエンジン音すら静音でありたいというターの選択と読み取れる。
ケイトブランシェットの愛車がクラシックなポルシェ911らしく、
ケイトのポルシェ要素を残しながら
ターが音に敏感というキャラクターを生かすため
タイカンを登場させたのではという解説があった。
【MP3】
ターの出世を決定づけるオケ録音のための練習が続く。
録音係が「MP3で録りますがwavの方がいいですか?」と
ターに聞く場面がある。
そこで私はのけぞってしまった。
いやいやクラシックのマスターの録音はアナログでしょう!
(今はデジタル録音が主流との事)
【異論は自分の土俵に持ち込み糾弾】
ターはジョン・ケージよりバッハを良しとするタイプ。
ターのロールモデルがオヤジしかおらず
保守的な男社会の古いものや伝統を良しとする、威厳を尊ぶ、異論は許さない等のマインドが
ターに備わってしまっていたので
現代音楽好きな学生を受け入れず吊るし上げて排除した。
ターの話は表向きは正論なので厄介だ。
【雑音に免疫ができたター】
あんなに日常音に敏感だったターが
終盤アジアの地では雑多な屋台が並ぶ外のテーブルで
集中して作曲活動をしている。
人声やバイクの通過音などの喧噪の中で。
それまでのターでは考えられない変化が表現されている。
【Jazz】
ターは大衆音楽を蔑視しているわけでは全くなくて
妻との抱擁シーンではJazzを口ずさんでいる。
この映画では殆ど見られない、心が温かくなる場面だ。
流れるのはカウントベイシーの「Lil Darlin」。
観客はその後のストーリーを追うにあたり
この「Lil Darlin」のシーンで体力を補う必要がある。
だってその後リラックスできるシーンはもうないのだから。
【わかりやすいハラスメント】
口答えしたから副指揮者セバスチャンを飛ばす。
都合の悪いメールを消さなかったからアシスタントのフランチェスカを次期副指揮者候補から外す。
おそらく面倒になったから、自分がセクハラをしてきた立場の弱い女性の将来を潰す。
性的に気に入った女子をあからさまにえこひいきする。
(オーケストラ団員を自分の性の対象として見なす)
やっていることはワインスタインと同じだ。
【ターと同じくらいえげつないキャラクター】
アシスタントのフランチェスカ。
盗撮して悪意ある切り貼り動画にしてSNSにUpしたり
ターの楽譜を盗んだり
誰かとのメッセージでターの悪口を言いまくったり
愛憎まみれて結果とんでもない復讐を実現してしまった。
鑑賞1回目ではわからない伏線がある。
動画を誰がどう撮ったのかわかった時、
私はあまりのえげつなさに泣きそうになった。
フランチェスカに比べたらえげつなさは100分の1だが
ター曰く「小物」のエリオットは
自分の実力のなさをお金やパクリでカバーしている人物。
こういう人って多いんだろうなという、モブにして意味のあるキャラクター。
【おじさん女性とロールモデル不在問題】
スタテン島の実家で名乗っていた「リンダ・タール」という
姓と名を「リディア・ター」に変えた時、
何がなんでものし上がってやるとターは決意したはず。
泥水を飲み、利用できるものはコンマス(現妻)すら利用し、
汚いやり方も努力も込みで今の地位を築いたターは
うすうす気づいていても本当の自分のオヤジ的パワハラの酷さを
自覚していなかった。
アジアの地で間違って風俗に入った時にはじめて自覚した。
男社会で上り詰めるためにそうするしかなかったという意味で
彼女は加害者であり被害者でもある。
2020年代は、
おじさんにならなくても女性が活躍できる世界に移り変わっている。
【アジアの描き方とアンコンシャスバイアス】
ラストシーンの描かれ方には
「落ちぶれた先がアジアでゲーム音楽?」
「西洋白人のアンコンシャスバイアスを堂々と露呈していいの?」
と正直心の中でひっかかるものがあった。
ターというキャラクターはペルーの先住民音楽研究をライフワークとしている設定だし
監督がモンハン好きらしいので
ターにも監督にも非白人蔑視の意図はないことは明らかだが
モンハンを選ぶのならラストの舞台を日本にすればいいのに…
日本にすると色々面倒だから別の国にしたのか?
と勘繰ってしまう。ダブルスタンダードの闇を見た気がする。
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M3GAN(102分)アメリカ映画
邦題:ミーガン
監督:Gerard Johnstone
ホラーだけど怖くないのでファミリーで鑑賞できる。
挿入歌が現行ディスコで可愛い。
映画の中では一瞬だったミーガンのダンスシーンが
SNSでバズったらしい。
NetflixのWednesdayのダンスシーンがバズったように
「SNS的に楽しむ」のがいいかもしれない。
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The Grand Budapest Hotel (100分)ドイツ・アメリカ合作
邦題:グランド・ブダペスト・ホテル
監督:Wesley Anderson
ウェス・アンダーソンは私には合わない、と思った。
まず、スタートから時系列もめまぐるしく変わり
カットもめまぐるしく変わるので目が回った。
これはお洒落映画なのか。
メインキャラクターの二人は好人物で
ストーリーもそれなりに進行するし
テンポも良く映像は綺麗。
でも猫や人の死が唐突にお洒落に出てきて嫌だった。
雪山のそりのシーンに至っては
「私は何を見せられているのだろう?」という気持ちになった。
その昔、同監督の「ザ・ロイヤル・テネンバウムズ」を観ようとして
序盤で心折れ観るのをやめたことを思い出した。
グランド・ブダペスト・ホテルは最後まで観たので
自分を褒めたい。
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Kauas pilvet karkaavat(96分)フィンランド映画
邦題:浮き雲
監督:Aki Kaurismäki
映画が始まってすぐ
「私はこの映画が好きになる」と直感した。
なぜなら映像のトーンが私の好みだったから。
映像も良かったし、入りのピアノのシーンも良かった。
市井の人である夫婦が
失業してからのち就業するという
なんてことない淡々としたストーリーだったが
映画が終わると私は泣いていた。
細かい事をいうと
棒読みのようなセリフ回しからにじみ出る人間性の表現や、
質素な生活をしている自宅のインテリア、
冷蔵庫やラジオ、ツインベッドや食器、
部屋の壁に反射する声の響き方なんかが
北欧的で良かった。
アキ・カウリスマキは間違いなく私の好みだった。
「敗者三部作」と言われる他の2作も
「労働者三部作」も観てみたいと思った。
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これから先観たい映画メモ
・エマ・ストーンの「哀れなるものたち」
・窓際のトットちゃん
・アキ・カウリスマキの「枯れ葉」
・「aftersun」←いま一番観たい
・ダーレン・アロノフスキーの「レスラー」
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